はじめに
当院には自然妊娠を目指す方から、現代医療の最高技術を要する体外受精の治療を受けられている方までと、様々な事情やお悩みを抱えた患者様がご来院されています。年齢も27歳〜46歳、そして職場や家庭環境など多種多様なバックグラウンドの中で不妊治療に励まれています。
「不妊治療」とは風邪の治療とは違い、「直ぐに治る」とか「薬を飲めば大丈夫」という物ではありません。子供を授かり、無事に元気な赤ちゃんを出産し、この手に抱える事が出来て初めてゴールとなるのです。しかしながら、なかなか結果に恵まれず5年、6年と治療を続ける事も少なくありません。
20歳代はキャリアを考え仕事に向き合い、30歳代で結婚、そして妊活して、すぐに子宝に恵まれると思っていたけど、コウノトリがやってくる気配が無い…。そして、病院に通院するも、すぐに結果が出ない不安は、月日の経過と共に増すばかり。さらに、その不安は体調にまでも影響してしまいます。
今回は、私の経験から30歳代の不妊とメンタルにスポットを当て「どのような気持ちで不妊に向き合い、妊活を進めて行けば良いのか」という課題についてお話しさせて頂きたいと思います。また、このコラムを読んで頂き、少しでも前向きな気持ちで妊活を進めるご夫婦が増えてくれる事を目的としています。
不妊と不安
現代の医学において、不妊症とは「妊娠を望み、1年以上性生活を営んでも妊娠しない場合を一般に不妊症と呼ぶ」と定義されています。「子供ってすぐにできるんじゃないの?」「避妊しなければ、妊娠するのは当たり前でしょ。」と、皆様の中で漠然としたイメージとして「子供は簡単に授かる事ができる。」と考える方が多いように思います。
そしていざ、妊活を始めてみると何周期も子供が出来ない…毎月、生理が来る度に「なかなかデキなくてごめんね」とか「体がどこか悪いのかな」と考えてしまうのです。さらに友達や同僚が妊娠したと報告を受けた時には、気持ちはさらにナーバスになってしまい、「友人の妊娠を本気で喜べない自分って性格悪いな…」とか思ってしまうのです。
「不安」をウィキペディアで検索してみると、
不安(ふあん、英語: anxiety, uneasiness)とは、心配に思ったり、恐怖を感じたりすること。または恐怖とも期待ともつかない、何か漠然として気味の悪い心的状態や、よくないことが起こるのではないかという感覚(予期不安)である。
と記されています。
これを、不妊で置き換えてみると、
なぜ、子供が出来ないのかを、他人と比較し、自分を劣等と感じてしまったり、病気や原因があるのではないかと考えること。また、毎周期ごとに妊娠への期待をするも、また生理が来てしまうのではないか、来てしまったと落胆してしまっている状態や、もう子供が出来ないのではないかという感覚や心的状態。
と、言い換える事ができます。その不安を取り除き解決する手段としてクリニックで行われている不妊治療が存在しているのです。そして、不安が完全に消え去るには「子供を出産する」その一言に尽きるのです。
不安を煽るもの
この文章を読んで下さっている皆様は、少なからず「妊活」を意識し、現在妊活中やこれから妊活を考えているという方が多いでしょう。
ご夫婦で愛し合い、愛の結晶として芽吹く新しい命。どれだけ、神秘的で素晴らしい事なのでしょう。しかし、数回のSEXで妊娠に至る夫婦はとても幸運なのです。
何度も何度も「妊娠に至らない」という現実を前に心が折れてしまいそうになるものです。
そして、そんな折れそうな心に入り込む、いわば”雑音”のような物が世の中にはたくさん蔓延り、妊活に対する不安を煽ってしまうのです。
世の中に蔓延る妊娠の“雑音”とは何でしょう。
ネットの情報
サプリメントなどの広告に多いのですが、「これで赤ちゃんが出来ました」はどこまで信憑性があるのでしょうか。それは、あくまでもその夫婦のパターンですし、ページをスクロールしていると不安を煽られ、ついつい購入したくなるように構成されています。しかし、成分表記を見てみると「これでその価格!?」と驚かされてしまう事が良くあるのです。ネットの情報を鵜呑みにしていると、本当に必要な栄養素を、適正価格で購入する事は現代社会において、針の穴に糸を通すように難しいと感じています。知らず知らずの間に、大切な時間とお金を取られてしまう。ご夫婦で、遊びに行ったり、旅行に行かれた方がよっぽど有益ではないかと感じます。
家族や友人との比較
家族や友人の中で、「狙ったらすぐ出来たよ」とか「一発で出来たよ」などを耳にする事はありませんか。子供が出来たという報告はとても鮮明な記憶として残るものです。そして、その記憶はいつの間にか自分のスタンダードになってしまうのです。奇跡的にすぐに出来た他人と自分を比較し焦ってしまい不安が増強してしまうのです。しかし、「狙ったらすぐ出来たよ」「一発で出来たよ」というケースは妊活している分母を考えるととても少数派であるという事実があります。赤ちゃんは通販サイトのようにすぐに届く物では無いのです。じっくりじっくり夫婦の時間の経過と共に授かる事柄です。焦らず、そして冷静に自分達の順番を待つ、これが賢明です。
基礎体温の変化と情緒
妊活をしていて必須と思われる基礎体温ですが、これに翻弄されていませんか。基礎体温が思ったように推移しない。低温期と高温期が明確に分かれていなかったり、高温期が短くすぐに下がってしまうなど、その度に気持ちが落ち込んでしまう。完璧に二層に分かれ、綺麗なグラフを描く事が理想です。しかし、近年、クリニックでは基礎体温は「そこまで気にしなくて良いよ」と指示させる事が多いのが現状なのです。基礎体温がギザギザで「自分はダメなんだ」と落ち込む前に、まず専門クリニックを受診し、適切な判断を仰ぐ事が大切です。
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